ベスト・プランニングの衛藤です。
ブログは久しぶりになってしまいましたが、今回は平塚市T様邸で採用したシン・小屋裏エアコンについてご説明していきたいと思います。
平塚市T様邸は、南玄関の3LDK+書斎の2階建てのご自宅です。階段による小屋裏空間を設けなかったことから、2階の空調について検討を実施していたところ、小屋裏エアコンシステムを改良した形で採用できないかと考え、今回のシン・小屋裏エアコンシステムが誕生しました。これまでの小屋裏エアコンシステムは、基本的に階段付き小屋裏収納空間に隣接して空調室を設け、空調室内に貯められた冷気を2階及び吹抜けなどを使い2階、あるいは1階に送ることで少ない台数で冷却を行うエアコンシステムです。
【設計コンセプト】
小屋裏エアコンシステムは基本的に小屋裏がある場合でないと設置できませんが、今回、2階廊下の天井部分に小屋裏に暖気を送り込む方法で、小屋裏収納空間なしで空調を行うことを考えました。下記が模式図です。

今回のシン・小屋裏エアコンシステムは、単にエアコンの冷気を各部屋へ送るだけではなく、室内で暖められた空気を再び空調室へ戻し、家の中で自然に空気を循環させる仕組みとなっています。
まず、小屋裏に設けたコンパクトな空調室の中でエアコンを運転し、空調室内に冷気を貯めていきます。この冷気は、空調室に設置したファンによって断熱ダクトへ送り込まれ、2階の各居室や、必要に応じて1階へと配られます。冷たい空気は暖かい空気よりも重いため、天井付近の吹出口から室内へ送り込まれると、徐々に下へ降りながら部屋の中へ広がっていきます。元々存在している暖かい空気は相対的に密度が小さくなって上昇するため、天井付近へ集まりやすくなります。
今回のT様邸では、この上昇した暖気を空調室へ戻すために、2階廊下の天井部分に暖気取込み用の開口を設けました。この開口は、2階廊下と小屋裏の空調室を縦方向につなぐ空気の通り道となっています。各居室から廊下へ流れてきた暖気は、天井付近に設けた取込み口から小屋裏側へ上昇し、再び空調室へ戻っていきます。空調室へ戻った暖気は、再びエアコンによって冷やされ、ファンとダクトを通じて各部屋へ送られます。
つまり、今回のシステムでは、
空調室で冷やす
↓
ファンとダクトで各室へ送る
↓
室内の暖かい空気が上昇する
↓
2階廊下の天井開口から空調室へ戻る
↓
再びエアコンで冷やす
という空気の循環をつくっています。
従来の小屋裏エアコンシステムでは、階段付きの小屋裏収納空間が比較的大きく、階段部分を通じて2階から小屋裏へ暖気が戻りやすい形となっていました。しかし、今回のT様邸には階段付きの小屋裏収納がありません。そのため、従来のように階段を暖気の戻り道として利用することができず、別に空気の通り道を設ける必要がありました。そこで、2階廊下の天井に縦方向の開口を設けることで、階段付き小屋裏収納がなくても、室内の暖気を小屋裏の空調室へ戻せるようにしました。この暖気の戻り経路は、冷気を各室へ送る経路と同じくらい重要です。
冷気を送り出すだけで、空調室へ戻る空気の道が十分に確保されていない場合、空調室内の空気だけが冷やされ、各室との空気交換がうまく進まない可能性があります。反対に、冷気の供給経路と暖気の戻り経路をそれぞれ確保することで、家の中に大きな空気の流れをつくりやすくなります。
ただし、空気は必ずしも模式図の矢印どおりに一直線に流れるわけではありません。実際には、各室のドアの開閉、家具の配置、吹出口の位置、ファンの風量、ダクトの曲がりなどによって流れ方が変化します。また、暖気取込み口が小さすぎたり、空調室内でエアコンの吹出し口と吸込み口が近すぎたりすると、空気の循環が十分に行われない可能性があります。そのため今回は、建物の構造、ファンの位置、ダクト経路、空調室の大きさを検討したうえで、Flowsquare+を使用した数値解析シミュレーションによって、冷気と暖気が適切に循環するか確認することとしました。
【具体的な空調設計】
エアコンの冷却能力については、外皮性能と日射取得量から検討を行い、10畳用以上のエアコンで必要な冷房能力を確保できると判断しました。しかしながら、エアコン自体に十分な冷却能力があったとしても、その冷気が各居室まで届かなければ家全体を冷やすことはできません。特に冷たい空気は暖かい空気よりも重く、自然には上方へ戻りにくいため、冷気を各室へ送る経路と、室内で暖められた空気を空調室へ戻す経路の両方を考える必要があります。
そこで今回は、建物内の空気がどのように流れるかを確認するため、いつも使用しているFlowsquare+を使用して三次元の数値解析シミュレーションを実施しました。


解析モデルは、建築確認申請時の図面を基に、1階、2階及び小屋裏空間を三次元で模擬しています。今回のモデルでは、一般的な小屋裏収納は設けず、エアコンを設置するためのコンパクトな空調室のみを小屋裏部分に設けています。また、2階天井の一部には、室内で暖められて上昇した空気を空調室へ取り込むための吹抜空間を設け、その部分についても解析モデルに反映しました。
解析条件は次のとおりです。
・1階、2階及び小屋裏空間を模擬
・室内ドアは基本的に開放した状態
・格子数:約146万点
・エアコン吹出し流速:4.35m/s
・エアコン風量:612㎥/h
・エアコン吹出し温度:290K(約17℃)
・初期室温:310K(約37℃)
※温度による空気密度の変化と重力を考慮(対流を模擬)
2階の4室には、それぞれ風量100㎥/h程度のファンと断熱ダクトで冷気を送り、1階には風量250㎥/h前後のアローファンを使用して冷気を落とす条件としています。解析では空気の温度によって密度が変化するように設定し、暖かい空気が上昇し、冷たい空気が下降する自然対流についても考慮しています。
なお、実際の住宅では室内ドアの開閉、家具の配置、ダクトの曲がりや圧力損失などによって空気の流れが変化します。
そのため、今回の解析は室内温度を小数点以下まで予測するものではなく、計画した空気の流れが成立するか、その傾向を確認するために実施しています。

上の画像は、エアコンを稼働させてから約475秒後における温度分布です。
左側には1階床面から約500mmの高さ、中央には2階床面から約500mmの高さにおける温度分布を示しています。
青色に近い部分ほど温度が低く、赤色に近い部分ほど温度が高い状態を表しています。
2階では、各居室に設けた給気口の周囲から冷気が広がり、4室それぞれに冷たい空気が送られていることが分かります。
1階は風量が十分ではないので、これだけで冷やすのはかなり難しそうです。床下エアコンと併用する必要があるかもしれません。
今回の結果からは、2階各室への冷気の供給と、1階への冷気の送り出しについては、概ね計画した経路で行われることを確認できました。
<以下は3Dの解析結果の様子>
【実際の施工】
こちらが、小屋裏に設けた空調室の施工途中の様子です。T様邸では小屋裏収納を設けていないため、空調室は必要な範囲に絞ったコンパクトな形となっています(写真奥)。空調室の中にはエアコンを設置し、室内に冷気を貯めた後、ファンと断熱ダクトを使って2階各室及び1階へ送り出します。
空間が小さすぎると、エアコンから吹き出した冷気がそのままエアコンの吸込み側へ戻る、いわゆるショートサーキットが発生しやすくなります。
解析結果を踏まえ、壁の高さやファンと壁との距離についても、空気の流れを妨げないよう調整しています。

完成した様子は以下のような感じです。
1枚目の写真は廊下側から見た写真です。奥に見えている梯子はこの空調室にアクセスするための梯子です。
2枚目の写真は空調室内の写真です。エアコンと各室に冷気を送るファンが見えていますね。


【現場での検証】
数値解析では、計画した条件において、冷気が2階各室及び1階へ送られる様子を確認することができました。ただし、解析モデルは実際の住宅を簡略化したものであり、狙った通り空気が動いているか確認する必要があります。そこで施工完了後に小屋裏エアコンと各ファンを実際に運転し、IRセンサーカメラを使用して空調室内の温度分布を確認しました。
下の写真の様に、上方はかなり暑い空気が溜まっていて、下方は冷えている様子が分かります。このように綺麗に空調室内の流路が分かれると、循環が上手くいっていると判断ができます。

※壁の線は写真に追記
今回のT様邸では、階段付きの小屋裏収納を設けず、空調に必要な部分だけをまとめた「シン・小屋裏エアコンシステム」を採用しました。2階廊下の天井に暖気の取込み経路を設け、小屋裏の空調室で冷やした空気をファンとダクトで各室へ送り、暖められた空気を再び空調室へ戻す仕組みです。計画段階では、エアコン能力の検討に加え、Flowsquare+による数値解析を行い、施工後にはIRセンサーカメラで実際の温度分布も確認しました。
今回の結果から、小屋裏収納のない住宅でも、間取りや構造、ダクト経路などの条件が整えば、小屋裏エアコンシステムを採用できることを実証できました。今後も、解析と実際の施工結果を確認しながら、その建物に合った空調計画をご提案していきたいと思います。
最後までご覧いただき、大変ありがとうございました。








