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伊勢原市O様邸 小屋裏エアコンシステム追加施工

ベスト・プランニングの衛藤です。

今回は2021年にお引渡しをしたO様邸の小屋裏エアコンシステム追加施工について書いていきたいと思います。

 

 

まずそもそも本件はO様邸建築時に夏用エアコンの冷却畳数の選択ミスをしてしまったことから始まりました。

当時は1棟1棟エアコン畳数の選択を外皮計算および日射取得計算から行っておらず、広いご自宅に対して随分小さなエアコンを小屋裏に1台取り付けてしまいました。

2階の廊下につけていれば畳数が小さくともいくらか冷えたのですが、小屋裏に小さなエアコンを取り付けてしまったので、これが失敗でした。

このため、お住まいになってから夏場2階部分が非常に暑いと自宅となってしまいまいました。

大変申し訳ないこととなってしまい、至急対策案を練ることと致しました。

エアコンの畳数を上げることでもいくらか改善は見込めますが、現状の使い方に合わせた効果的な方法を考える事としました。

 

今回、改善の方法は2種類でした。

1つ目は廊下にエアコンを設け、2階を冷却する方法です。

こちらは日中各居室のドアを開けておけばそれなりに冷えるのですが、ドアを開けておかなくてはならないという問題がありました。

更にエアコン設置位置が限られてきますから、外壁に適切なエアコン配管経路を計画しなくてはならず、構造によっては長く外部配管が見えてきてしまうことになり、意匠性が低下してしまいます。

 

2つ目は小屋裏エアコンシステムを導入してしまうことでした。

これは小屋裏エアコンの冷気を各居室に配ってしまうので、ドアを締め切っていてもかなり冷やすことができます。

問題はダクトを各居室に這わせる事と、機械による空気の流れが適切に行われるかよく考えることです。

 

結果として今回は2つ目の手法をご選択頂きました。

O様邸の構造を簡単にご説明しますと、ヘーベルウォール100使用、オプションで樹脂窓のトリプルガラスと床下エアコンをご採用頂きました。

外皮性能はUa値=0.37 W/(K・㎡)、気密性がC値=0.1 ㎠/㎡です。

間取りはプライバシーの問題もあるので、壁と床の面のみ表示したものが下記です。

 

まず選択すべきエアコンの性能を見ていきましょう。

エアコンの性能を決めるためにはどのように家が温められているか考える必要があります。

家が温められる方法は大きく二つあり、①外の温度と室内の温度差を壁の熱伝導で暖められるもの、②直射日光(放射)や壁への日光が熱伝導で伝えられるものの2つです。

①はUa値と外皮面積から計算ができ、とある夏の一日の平均気温(31℃)と室内温度(25℃)では0.75kW程度の仕事で室内が暖められます。

②は日射取得率と外皮面積で求められ、昼間の日射取得量を1時間当たりに換算すると、2kW程度の仕事で暖められます。

Ua値0.3台の家は断熱性が高いので、このように「日射取得によるエネルギー」が「外気との温度差によるエネルギー」よりかなり大きくなります。

②の日射取得量を減らすためには、窓の外側にアウターシェードをつける必要があります。

 

①と②の合計2.7kWを冷却する様にエアコンの畳数を選択します。

エアコンの能力は冷却能力、暖房能力、COP又はAPF(消費電力に対する仕事効率)で決まります。

O様邸では12畳用(3.6kW)を選択しました。

※最も暑いピーク時の計算も行った結果、少し余裕を見ています。

 

さて、これで家を冷やすに十分なエアコンは選択できましたので、次に空気の流れを見ていきます。

小屋裏エアコンに貯めた冷気を各居室にダクトで配っていくわけですが、冷気は暖気と比べ重たいので、各居室の天井にある給気口からストンと真っすぐ室内に落ちていきます。

出口から近い位置にこの給気口があると、冷気がすぐに廊下に逃げてしまいますから、極力出入り口から離れた位置が良さそうです。

上の間取り概要図の〇に囲まれた位置に給気口を設定しました。

 

このように考えた給気位置を考慮し、空気の流れがうまくいっているか確認するために数値解析シミュレーションを行いました。

まず1階から小屋裏まで壁や床、階段を模擬します。

これらを60cm程度ごとのメッシュを作成し(モデル全体で約167万節点)、エアコンには適切な風量と温度(290K=17℃)を模擬する様にします。

初期温度には310K(=37℃)を与え、ダクトに設置した強制パイプファンには100㎥/hの風量で居室に空気を流すように設定します。

対流の効果も模擬したいので、空気には温度に合わせた適切な密度と重力を与えました。

下記がモデル概要図(外壁を取ったもの)です。

図の左手前には吹き抜けが見えています。更に小屋裏には今回使用するエアコン(青色)が見えていますね。

 

このモデルの解析結果は下記の様になります。

ダクトの長さは各居室ごとに異なりますので若干部屋ごとの時間差はあるもの、どの部屋も冷却は行われることを確認しました。

図右上の吹き抜けの部分は1階から暖気がやってきますので、エアコンをつけた直後(解析の範囲)では全部が冷えるところまでは捉えることは出来ませんが、中央に見える階段と右下の居室から流れる冷気が吹き抜け側に流れている様子が分かりますので、家全体として冷却を行うことができます。

 

 

このように概ね冷気が各室に広がっていくことが分かったところで、いよいよ施工を行いました。

後施工の小屋裏エアコンシステムは基本的には非常に難しいのですが、その理由の一つとしてエアコンを設置する配管がない事が挙げられます。

断熱材を厚く吹きますので、配管経路によっては小屋裏にエアコンを増設できないわけです。

加えて、ダクト経路の問題もあります。各居室にダクトを敷設するためには、小屋裏にそれなりのスペースが必要になります。

O様邸ではどちらの条件もクリアできそうでしたので、小屋裏に入るための点検口を1点設け、施工を実施しました。

内側からは強制パイプファンを4点設置し、それぞれをコントローラーするためのスイッチを設けました。

 

 

パイプファンから各居室に断熱ダクトを設置した様子が下記です。

ところどころ躯体から吊り下げて、変な曲がりがないようにします。

 

 

ダクトの入口出口部分は少しでもダクトの曲率が大きくならないように注意します。

ダクトのR部による圧力損失はかなりの量になるので、少しでもロスを減らすために工夫します。

 

 

各居室の出口の給気口にカバーをつけて作業は完了です。

実際に新しい空調システムを使用して頂いたところ、バッチリ機能し、快適な環境となったとのことでした。

 

このように小屋裏エアコンシステムは非常に簡素なシステムですが、計画を丁寧に行うこと安価に導入を行い、低ランニングコストで快適な室内空間を実現することができます。

 

現在弊社の注文住宅及び分譲住宅はこちらの小屋裏エアコンシステムをご提案しています。

一棟一棟状況間取りや日射取得異なるため、導入前には必ずシミュレーションを行って実現可能か確認をしてから採用をしておりますので、大きく外すことはないです。ご興味頂いた方は是非弊社までお問い合わせください。

(OBのお施主様におかれましては、導入可能な間取り、躯体性能値がございますので、全てに適用できるわけではないことをご承知おきください)

 

それでは今回はこの辺でブログを終えたいと思います。

最後までご覧頂き、大変ありがとうございました。