ベスト・プランニングの衛藤です。
多くの方々に数値解析の内容をご覧頂きありがとうございます。
先月先々月と多くのお問い合わせを頂き、小屋裏エアコンシステムだけつけて欲しいとのご依頼もいくつか頂きました。
貯気槽やダクトの関係で間取りと一緒に検討しなくてはならず、お断りすることとなり申し訳ございません。
最近では、事前のエアコン空調解析の他に、後付け小屋裏エアコンシステムの検討などで本解析が活躍しています。
私が使用している数値解析ソフトは”Flowsquare+”という解析ソフトです。
通常流体解析ソフトは非常に高価で、ライセンス料1本数100万~1000万円というものしか知りませんでした。
Flowsquareさんは年間3.3万円という非常に安価なソフト使用料で3D解析を提供しています。
細かい設定やジオメトリ作成、複雑なポスト処理を行うには足りないかもしれませんが、定性的に現象を捉えたり、シミュレーションするために住宅の空調解析を行うことは十分可能な非常に優秀なソフトです。
今回は6月末にお引き渡しした横浜市S様邸の空調解析についてブログとして書いていきたいと思います。
N様邸の間取りの特徴は矩形の階層の北側に階段を設け、2階は廊下をコンパクトにして部屋を大きく取ってあります。
このコンパクトな廊下部分に夏用エアコンを設置し、この1台のみで家中を冷やそうというコンセプトになります。
夏場はドアを開けておかないと、小屋裏エアコンシステムを使用しない限り家中を冷やすことが難しいです。
加えて、間取りとエアコン位置がうまく設定出来ていないと、1台で冷やす事すら困難です。
上記を踏まえて設置計画と解析結果を見て頂けたらと思います。
1.エアコン設置計画
まずN様邸の間取りをあまり詳細が分からない範囲でお示しします。
下図左が1階部分、右が2階部分です。図上側が北側で、LDKは1階に配しています。
図に示しているものは間仕切のみで、北側中央部にあります。右図の中央部の階段を登り切った部分にエアコンが設置されています。
予想される冷気の流れを青色で示しています。
2階は中央部にエアコンを設置していますので、ぱっと見た感じで非常に良さそうですね。
2階の南側に積極的に気体が流れてしまいそうですですが、日射取得もその分多いですので、この点も大丈夫そうです。
問題は1階ですが、こちらは階段から落ちた気体のみ流れていきますので、2階ほどの効果がなさそうです。
N様邸は敷地条件も良く、南側からの日射取得も良いですので、1階LDK南側の涼しさがポイントとなりそうです。
2.エアコン畳数
エアコンの畳数は暖められるエネルギーを計算し、エアコンの冷却能力と比較して決めていくことになります。
暖められるエネルギーは下記の二つに分けられます。
①日射取得エネルギー
日射取得エネルギーは窓であれば太陽光が入射し、家の中を照らすことで放射として得られるエネルギーです。
良い窓であればLow-Eガラスを使用し、放射を反射して室内に入射する量を低減できます。
外壁であれば外壁が直接日射で暖められ、熱伝導として家の中に入ってくるエネルギ―となります。
外皮計算上では平均日射取得率として計算され、日射取得量を外皮面積で除して百分率で示した値となります。
今回は日射取得量を得たいので、日射取得率に外皮面積を掛け、更に東京エリアの日射強度を掛けることで総日射取得量を得ます。
結果、N様邸では4.4 [kW]の日射取得があると計算されました。
②熱伝導エネルギー
熱伝導エネルギーは壁の内外の温度差により家の中に侵入してくるエネルギ―です。
こちらは家の断熱性がダイレクトに影響してくるエネルギーで、昼夜問わずやり取りのあるエネルギーです。
N様邸は断熱性(平均熱貫流率)が Ua = 0.43 [W/(㎡K)] ですから、これに外皮面積と内外の温度差を乗じた値が熱伝導エネルギーとなります。
夏の暑さのピーク時には外気温35℃に対して室内温25℃一定とすれば10℃の差があることになります。
このことから計算を実施すると、N様邸では1.35 [kW]の熱伝導エネルギー(仕事量として)の取得があることが分かりました。
熱エネルギーの総取得量としては、この2つのエネルギーを足し加えることになりますから、ピーク時には5.75kW程度の熱量となることが分かります。
ピーク時は日射取得エネルギーが全取得エネルギーの3/4も占めていますね。
夏場は日射が如何に強烈かわかります。
ちなみに全日通してみますと、夜は日射取得がなくなりますので、6:4くらいで日射取得エネルギーが大きくなります。
ピーク時と同様に計算を行い、平均して取得エネルギーを計算すると 平均 2kW程度となります。
さて、こうして得られた取得エネルギーから、エアコンの冷却と比較してエアコンの畳数を決定していきます。
弊社の空調システムは一日中つけ続ける使い方を想定しますので、ピークに合わせて畳数を設定すると過剰になりますので、定格の2/3位の能力で動かせるように設定します。
結果、10畳用エアコン(2.8kW)を設定しました。
余裕を持たせるためには大きいエアコンでも構いませんので、12畳用(3.6kW)でも良いですが、14畳を超えると200Vのエアコンを入れることになりますから、この辺の値では一考が必要になりますね。
3.流体解析
次はエアコンの冷気が十分に流れていきわたるか、流体の解析を実施しました。
いくら冷却が間に合っても、冷気が届いて、暖気をエアコンが吸い込めなくては冷却は実施できないからです。
家の模擬は間取りの間仕切り以外を全て取り払い、初期の空気温度を設定し、熱源に暖気を冷気に変えるエアコンを模擬して行います。
日射取得及び熱伝導によるエネルギーを模擬することはモデル上不可能で、また、冷気の流れを見ることが目的なので実施していません。
エアコンの風量は実はエアコン畳数が変わったところであまり大きな差はありません。
(エアコンが大型化することで少しずつ流量が増えてはいきます。)
定格運転で大体600㎥/h程度を見ておけば良いでしょうか。
モデルのメッシュサイズなど各パラメータはこれまで数十モデル作成してきて、最も解析精度と解析時間のバランスの良い塩梅で設定していますので、解析ノウハウという事でこちらではお示ししません。
格子数としては120万節点程度になり、100,000ステップ(現象時間約360s)が大体10時間かからないくらいの解析時間です。
※仕様PC (HP製 CPU:Intel i7-10750H,メモリ:32GB,グラフィックボード:NVIDIA GeForce RTX 2060 with Max-Q)
モデルは下記の通りです。
左側にモデル全体の概要を、右側にエアコン設置部周辺のモデルを示しています。
青色がエアコンをモデル化した部分ですね。
では結果を見ていきましょう。
今回もアニメで見ていきたいと思います。
まずは2階からです。2階床高さ500mm程度の温度分布を示しています。
想定通り、南側面が積極的に冷やされ、その他居室もそれなりに冷えていく様子が分かります。
2階冷気の流れの様子
次に1階の様子です。
2階の階段から降りてきた冷気が階段から広がっていますが、2階と比べて明らかに遅いですね。
1階冷気の流れの様子
ただ、全体に回る気配はありますので、時間を1日中エアコンをつけておく使い方では、1階も何とか冷気が回りきるかもしれません。
4.効果検証
最後に効果の検証ですが、データロガーによるデータ取得は行っておりませんので、細かい温度データはお示しできません。
お引渡し直前にエアコンをつけて2日程度置いたところで、私が洗面台のコーキングを施工するために1日おりましたところ、エアコン温度設定23℃でお昼間も25℃~26℃で安定しておりましたので、十分なレベルで冷却ができているのではないかと思います。
(※6/28に作業を行いましたが、当日は6月としては記録的な暑さとなり、最高気温は横浜で33℃でした)
お引き渡し後も床下エアコンを使用せずに快適にお過ごしとのことで、それなりにうまくいって安堵致しております。
余談ですが、夏の暑さは人によって快適な温度が大きく異なり22℃~26℃ですので、暑く感じるようであればエアコンを20℃設定まで下げて頂くか、床下エアコンの上側のみを併用して頂くことを推奨しております。この場合は冷気が床を這いますので、サーキュレーターの導入も必須ですね。
以上でN様邸の空調計画のレポートを終えたいと思います。
このように日中の使用方法や間取りによっては小屋裏エアコンシステムを使用せずとも、冷却能力の検討と対流の起こりやすい間取りとすることで十分快適に過ごせることが検証できました。
建築計画作成フローとしては空調に合わせて間取りを決定するわけではなく、間取りが最優先です。
各室間欠冷暖房、2階夏用エアコン、小屋裏エアコンシステムなどなど、間取りと空気の流れに合わせた空調をご提案させて頂いております。
間取りによっては各室冷暖房しか方法が無いことや、どれでも採用が可能な場合など様々なパターンあり、ケースバイケースとなりますのでご了承下さい。
次回は既に購入者が決まりました南栗原B号棟の新たな空調システムについて、数値解析シミュレーションを交えてご説明していきたいと思います。
最後までご覧頂き、大変ありがとうございました。