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横浜市S様邸 小屋裏エアコンシステム(最終回:施工及び検証)

ベスト・プランニングの衛藤です。
小屋裏エアコンシステムについて、多くの反響を頂き大変ありがとうございました。
夏場のエアコンは世の中で様々な検討や施策が試みられていますが、反響の大きさが皆様の関心の高さを示していると思います。
私自身決まった「正解」というものはなく、それぞれの間取り、部屋の使い方、ご予算に合わせて様々な解があると考えています。
小屋裏エアコンシステムはその一つの実現可能な解で、簡素さ、価格とその効果のバランスの良さが特徴です。

 

今回は横浜市S様邸の小屋裏エアコンシステムの3回目、問題が起こらない配慮と施工について記載していきたいと思います。

 

 

S様邸の小屋裏エアコンシステム導入に際してどうしても確認しておかなければならないものとして、下記が挙げられます。

 

・強制パイプファンの騒音量
・ダクト系の損失(圧力損失等)
・気体の温度上昇

 

これらを確認するために、展示場で試験を行いました。

 

 

まず騒音量ですが、排気口から1mの位置に騒音計を設置したところ、約34dBの騒音となることが分かりました。
40dB程度の環境音の室内では1~2dBと音量増となる程度と分かりました。
実際には天井部に音の発生源があるため、寝るには全く気にならないレベルとなりそうです。

 

次にダクト系の圧力損失です。
カタログ値はあるものの、吹き出しグリルやR部ができることから、計算で正確なところはわからないと判断し、実験を実施しました。
定格風量は100㎥/hですが、1か所R部を作り、3mのダクトを設置したところ、吹き出し口の流量は75㎡/hとなりました。
パイプファンである以上、圧力損失は無視できませんので、以降75%程度で設計することが良さそうです。
(計測機はTesto製の流速、温度計測機を使用しました)

 

最後に気体の温度上昇です。
実験では断熱材の無いダクトを使用し、小屋裏を貯気槽として冷やしたうえで実験を行いました。
3mのダクトを使用した場合、2℃~3℃の上昇が見られました。
長い間使用すればダクトの温度は落ち着くかもしれませんが、結露の恐れも考えるとやはり断熱ダクトは必須であると結論付けました。

 

こうしたことを踏まえ、S様邸の施工を行いました。

壁の石膏ボード部分までは大工さんに作って頂き、パイプファンの設置下地や天井を私の方で製作しました。

 

下記がその様子です。

断熱材がむき出しになっているところに天井下地を作成していきました。

断熱材がギリギリまで来ていることが分かります。

更に屋根勾配に合わせる意味と、暖気をエアコンまでスムースに運ぶ意味で天井を斜めに作っていきました。

 

 

その後、天井などを全て石膏ボードで覆います。

最終的には固形断熱材(スタイロフォーム)で床と立ち上がりを覆いましたが、実施は一番最後です。

 

 

更に入口に腰高の壁を設けて貯気槽から小屋裏に冷気が漏れないようにします。

 

 

最後に笠木と壁紙を施工して(こちらは私の仕事ではないですが)完了です。

写真は完成した様子で、更に冷気が漏れないように、暖気がエアコンまで届くように断熱材で空間を仕切りました。

 

 

さて、試験の様子です。

IR温度センサーで撮影したところ、20℃設定で下方断熱材の最も冷えているところで21℃程度になっています。

ちなみに吹き出し温度はピークの冷たい部分で17℃~18℃した。設定温度より低い温度の冷気が出るようです。

温度センサーが冷たい部分を感じてしまって、止まってしまうことが不安でしたが、結構頑張ってくれています。

(吸気が暖かいからでしょうか)

 

 

次にパイプファン周辺の温度分布です。

この時は操作が分からず、レジェンド(赤から青の温度勾配表示)が表示できていなくてすみません。

冷気が各パイプファンに沿って流れている様子が見て取れます。

小屋束(柱)が邪魔でしたが、吸気口はかなり冷えていそうです。

※下記写真は設定温度を18℃してから撮影しました。

 

 

最後に給気口ですが、吹き出し部周辺から見ると3℃程度温度が上昇している様子が分かります。

流量は最もダクトの短い部分で82㎥/h、最も長い部分で55㎥/hとなり、やはり遠い部分ではかなりの損失があることが分かります。

 

 

家全体でみると、人の顔の高さで23.5℃一定(エアコン設定18℃時、お昼日射取得が最も大きい時間)となり、設定温度とかなりの乖離があることが分かりました。

原因は①冷気が落ちてきても対流が起こり辛いことで、高さ方向の温度勾配が大きい事、②1階の冷房が床下エアコン(冷房、吹き出し上のみ)の状態で使用しているため、冷却が足りず暖気が上がってしまう事が考えられます。

 

改めて記載しますと、S様邸は60坪程度広さを1階は床下エアコン冷房、2階と小屋裏を小屋裏エアコンシステムで冷やしていますので、通常のご自宅30坪程度を冷やすことも十分可能と思います。

S様邸ではその広さから、1階の冷却もポイントになってくると思います。

 

これまで弊社では「夏場は1台でも可能だが暑い場合は各室に追加をお願いしたい」とご説明して参りましたが、更なる改良に向け、少しずつではありますが、進歩しています。

世の中には多種多様な全館空調が開発されていますが、初期導入費用が高価であったり、メンテナンス性が悪い、温度ムラが激しいなど様々な問題を抱えています。

こうした問題を解決する方法を現在様々な手法を考案し、今後も実証してご提案して参りますので、お気軽にご相談下さい。

ちなみに冬場の室内の暖かさについては、自信をもってご提案できますので、健康寿命の長い家をご希望の方も是非弊社展示場にお越しください。

 

今回は以上で終えたいと思います。

最後までご覧頂き、大変ありがとうございました。